モヤモヤが活力に変わるとき【杉原 貴史コーチ】

「モヤモヤしているけれど、その正体が自分でもよく分からない」

コーチングの場では、そんな状態から対話が始まることがあります。
仕事やキャリアについて考えているのに、いくら考えてもモヤモヤが解消しない。

会社や上司、周囲の人たちに対してさまざまな思いが浮かび、
自分自身が本当はどうしたいのか分からなくなってしまう。

最近、複数のクライアントとのセッションを振り返っていて、
そんな「モヤモヤ」を抱えていたクライアントに、ある共通した変化が起きていることに気づきました。

それは、思考の矢印の向きが変わったことでした。

それまで組織や他者など外側に向いていた矢印が、少しずつ自分自身へと向き始める。
そして大切なのは、その矢印の向きを変えたのは、コーチである私ではなく、
クライアント自身だったということです。

では、コーチは何をしていたのでしょうか。

振り返ってみると、私はクライアントのモヤモヤをすぐに解消しようとしていたわけではありませんでした。
そもそも矢印の向きは、1回のセッションで変わったわけではありません。

何度か対話を重ねながら、
「何がクリアになれば前に進めそうか」「本当はどうしたいのか」
を一緒に考えていきました。

人はモヤモヤしているとき、どこに矢印が向いているのか、
どこに向けるべきなのかさえ分からなくなることがあります。

そんなときに、すぐに「他責ではなく自責で」「自分が変わらなければ」と考えても、なかなか前には進めません。

まずはモヤモヤと向き合い、その正体を探ってみる。
対話を通じて少しずつそれが見えてくると、自分がどうしたいのか、何をすべきなのかも見え始めます。

あるクライアントが、セッションの中でこんな言葉を発してくれました。

「霧が晴れたというより、自ら霧を晴らした」

とても印象に残っている言葉です。そしてこう続けてくれました。

「一人でモヤモヤと向き合っていると不安や焦りがどうしても先行してしまう。
だからビジネスパーソンにもスポーツと同じようにコーチが欠かせない」

コーチの役割を再認識させてくれる言葉でした。

ただ、そんなに簡単なことばかりではありません。
感情の整理には時間がかかりますし、モヤモヤの正体がなかなか見えてこないこともあります。

だからこそ、そこでコーチが焦ってはいけないのだと思っています。

私にとってコーチングは、クライアントとコーチが、散らかってしまった部屋を一緒に整理しながら、
見つからないものを一緒に探していくプロセスに似ています。

コーチが先回りして「ここにありましたよ」と差し出してしまえば、早く片づくかもしれません。
でも、それは本当にクライアントが探していたものなのでしょうか。
クライアント自身が探し、自分で見つける機会を奪ってしまうかもしれません。

矢印の向きを変えるのは、コーチではなくクライアント自身です。

私は、コーチが「こうですよ」「こっちですよ」と誘導するのではなく、対話を通じてクライアント自身がモヤモヤの正体に気づき、自分なりの行き先を見つけ、次の一歩を踏み出していくプロセスを大切にしています。

「整体を受けて整えられた感覚になった。
1時間対話しても全く疲れがなく、むしろ活力がみなぎっている」

クライアントからもらったこの言葉は、コーチ冥利に尽きるものでした。
ただ私がクライアントを整えたわけではありません。クライアントとコーチの協働作業なのです。

そしてひとたび矢印がクライアント自身に向けば、その矢印の先に活力が生まれ、表情や声も明らかに変わっていきます。そして不思議とコーチである自分にも活力がみなぎってくるのです。

これからもこの感覚を一人でも多くのクライアントと分かち合える、そんなコーチでありたいと思っています。


この記事のコーチは

杉原 貴史コーチ

人・組織のプロとして、またリーダーとしての経験を活かし、自己理解を深め、意識と行動の変化を後押しします。前に踏み出す勇気とエネルギーを引き出す対話を大切にしています。